どれほど待っても世界は終わらない。
待てど洪水は来ないし、箱舟もない。
わたしに与えられた唯一のモノは、わたしがまだ幼い頃に迷い込んできたヒトモシ。わたしの傍らに存在することを許されたのは、彼だけ。彼を殺そうとするずいぶん前のママを、わたしが必死に止めてから、以降のママも仕方なくといったように置いてくれた。彼はわたしから離れようとしなかった。わたしを案ずるでもなく、自らわたしの傍らに居ることを望んでくれた。ぼく、きみ、優しい人だってわかるの。そう言った彼は酷く暖かく見えた。ママは、わたしの傍に物を置いているとしか思ってない。わたしの傍に居るのは、紛れもなく者だ。
与えられたパンを半分ずつ分けて食べる。一口に千切っては彼の口へ、千切ってはわたしの口へ放り込む。パンとスープ、それだけの食事。彼は気遣い性だから、気付かれないように彼が食べるパンを増やした。

「少ない?」
「ううん、ちゃんだって、同じ量、だよ」
「…そうだけど」

彼はあまり多く望まない。ありがたいけれど、自分の無力に切なくなる。なにもできない。彼に、なにもしてあげられない。彼はわたしに、たくさんのものをくれたのに。

「それは、ちゃんだって、一緒。ひとりぼっち、ぼく、傍に、置いてくれた。ちゃん、ぼく、いっぱいもらった」

わたしがあなたになにをあげられたというの。溢れて出てくる涙が、手と木の床を濡らした。彼を抱きしめると、ほんのり暖かかった。

「ねえ、逃げよう」
「え?」
ちゃん、もう小さくない。無力じゃない。非力じゃない。ぼくも、たたかう。だから、逃げよう」

わたしは目を見開いて見つめる。彼は真剣にわたしをみる。
わたし、決心する。彼と一緒に、自由になるんだ。大きく頷くと、彼は笑った。

どれほど待っても世界は終わらない。
待てど洪水は来ないし、箱舟もない。
それなら、一縷の希望に縋りついてみようと思う。その希望を見られるのは、彼が居たから。自由を必死に追いかけるのは、なにも醜いことじゃない。状況に抗って生にしがみつくのはかっこうわるくなんかない。生き延びるんだ。そしていつか、世界の終わりを憂いるようになれたのなら。そんな希望を、彼となら見られる。





屋根裏の少女
(全てを識る予言書よ、どうか嘘をついて)







/Sound Horizon